高齢者の皆さんにとって今<緊急>とは!
救急車で運ばれる重症の患者さんは血圧や呼吸が激しく変化します。救急外来(E.R.)では、患者さんの生活を聴くよりも、数値の変化や画像診断を頼りに、救命のための1時間(Golden Time)に一心不乱となりました。しかしE.R.に運ばれる高齢の患者さんは、脱水症や誤嚥性肺炎、体調不良が原因で、転倒し骨折をきたしていました。もっと早く治療を開始しておれば、受診する必要もなかったかもしれない、もっと早くにどうにかできなかったのか。生活はどうだったのか、もっと早くに、何をしておればよかったのか。これは救急の現場では解決できない疑問でした。
〜もっと早く生活の中で何をすればいいのか?〜
22008年、私は救急医療から在宅医療に転向しました。最初は、皆さんお元気ですね、変わりないですねの繰り返しでした。たまに熱が出た、食欲がない、眠れなくなった、便が出にくいという程度。風邪なら薬を処方するくらいでした。救急医療の時は2~3分で大体の見当がつき、何をどうしたら次は何と言うふうに、立ち止まることはありませんでした。今別に症状もない、普通に生活しているかに見える高齢者、要介護者に一体何をしていけばいいのだろうか。一旦症状が出れば、元の生活に戻ることが難しいことは、在宅医療ではよく経験します。浅い川でも深く渡れ、をモットーに、万が一に備えて周到にいろんなアプローチを考える救急医療の発想は通用しないのかできないか。そもそも見えにくい前兆らしきものをどう捉えるかが難題でした。
〜在宅医療と介護の関係〜
外来や病院では用いる検査は豊富にありますが、受診に至るまでの経過や情報をまず収集しないといけない。そう!普段生活を介助している介護スタッフは日々の様子をよく知っているはず、介護の言葉で表現される情報を集めようと考えました。食べっぷり、活気や意欲を、予め作っておいた空白に記入してもらい、FAXで送ってもらい、それに一つずつコメントと判断を返信して、スタッフにも自分にもフィードバックする作業を、何千枚と蓄積していきました。
最初の疑問は、利用者さん(介護では日常の生活サービスを受ける方なので、患者さんとは言いません)に元気がなければ、普通は一生懸命に食べさせようとされますが、かえって誤嚥を招いていないか?咀嚼や嚥下の機能が低下するという加齢現象に、不測の体調の悪化が重なると、おそらくうまく食べられなくなる、そんな時期であれば、むしろリスクを減らして食べる力が回復するのをしばし待つ方が安全ではないか。これは救急医療のダメージコントロールにも通じる。
そう考えて、1〜2日位は絶食で飲水だけで様子をみましょうとアドバイスをしました。しかし、おいそれとは納得してもらえません。食べないと元気にならない、食事介助は介護職が本領発揮する領域だからです。でもそのうち、絶食したら元気を取り戻す体験を重ねるうちに、「ご飯を止めてお水だけにしました。いつまで止めたらいいですか」と聞いてこられるようになりました。「お腹がすいた、とおっしゃって、たくさん水を飲まれています。」と。それなら食事を開始しましょう、1日1食からね、食形態もアップして行って、と依頼しています。
経口補水液の自作方法もお話しましたら、入居者さんが元気になる、病院に行くことが減ったと、いつの頃か<魔法の水>と称されるようになりました。体水分が欠乏しやすい、食欲や活気に水分は重要であることを実感する毎日です。そして10年が過ぎ、予想もしなかった未曾有のコロナ禍が到来しました。
〜今、ベッドサイドでの筋肉量評価へ〜
高齢者にありがちなことに、<こもり熱>という現象があります。暑さ寒さの自覚が乏しくなり、ムッとする締め切った部屋で、寒いからと厚着で布団を被っている高齢者をよく見かけます。37℃後半くらいの発熱がいっとき出て、すぐになくなることもよくあります。今だと、コロナか!クラスターかと心配になり、熱が下がるまではと、居室配膳で隔離モードにされたりします。せっせと飲水を促し、多くは事なきを得ます。違うだろうとは思いながら、何度PCR検査をしたことか、どうにかならないかと考えてきました。
私は体水分の貯蔵場所、筋肉が大幅に減っていることが、原因ではないかと考えています。体水分の増減や加齢性筋肉減少症(サルコペニア)こそが、〜もっと早く生活の中で何をすればいいのか?〜 にヒントを与えてくれないかと考えています。それは加齢現象であって、どうにもならないことかもしれません。
しかし、経口補水液のフリードリンクが病気を減らした実感を得た経験を頼りに、要介護者の体水分と筋肉量を簡便に測る研究をしています。まだ端緒についたばかりで長くもなりますので割愛しますが、今のサルコペニアの国際基準は歩行速度、握力など成人向けの健康運動の指標です。今、要介護の高齢者にも利用できるサルコペニア指標は、超高齢社会における医療や介護の物差しとして重要だと考えています。
2022年9月27日全面改訂

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